塗ることよりも守ることに全力を注げ
DIYで壁や家具の塗装をする際、初心者はどうしても早く色を塗りたいとはやる気持ちになりがちです。
ですが、塗装のクオリティの8割は、養生(下準備)で決まります。
養生とは、塗料がついたらいけない場所をテープやビニールで覆って保護することです。
プロの塗装職人が現場に入って最初に行うのは、ハケを握ることではありません。
ひたすらテープを貼り、ビニールを広げる作業です。
この工程を面倒くさがって雑に済ませると、どんなに高級な塗料を使っても、仕上がりは雑になります。
逆に言えば、養生さえ完璧なら、塗る作業自体は適当でもそれなりに美しく仕上がるのです。
今回は、素人とプロの差を生む、論理的で確実な養生のテクニックを解説します。
準備すべき三種の神器
養生には専用の道具が必要です。
家にある新聞紙やガムテープで代用しようとするのは、失敗への片道切符です。
以下の3つは必ずホームセンターの塗装コーナーで揃えてください。
- マスキングテープ
文具コーナーにある可愛い柄のものではなく、黄色や緑色の塗装用を選びます。
粘着力が絶妙に調整されており、剥がす時に下地を傷めず、かつ塗料が染み込みにくい設計になっています。幅は24mm程度あると作業が楽です。 - マスカー
これが最強の時短アイテムです。
テープとビニールシートが一体化しており、テープを貼ってからビニールを広げるだけで、広範囲を一瞬でカバーできます。
550mm幅と1100mm幅の2種類あると便利です。 - ウエス(雑巾)と掃除用具
掃除も立派な養生道具の一部です。理由は後述します。
ロジカルな手順
養生には正しい順序があります。
適当な場所から貼り始めると、ビニールが作業の邪魔になったり、隙間ができたりします。
以下のステップに従ってください。
STEP 1:徹底的な除塵
テープを貼る前に、貼る場所のホコリや油分を完全に拭き取ります。
ホコリが残っているとテープが密着せず、その隙間から塗料が入り込んで滲みの原因になります。
地味ですが、ここが運命の分かれ道です。
STEP 2:マスキングテープで額縁を作る
いきなりマスカーを貼ってはいけません。
まずはマスキングテープだけで、コンセントカバー、巾木(はばき)、天井の境目などの塗りたくない境界線を縁取ります。
これを捨て貼りと言います。
角の部分はテープを重ねず、カッターやヘラを使ってピシッと直角に貼るのがコツです。
STEP 3:マスカーで面を覆う
縁取りしたマスキングテープの上に重ねるようにして、マスカーを貼ります。
そしてビニールを広げて、床や家具を覆います。
この二段構えにすることで、最後に剥がす際、塗料で固まったビニールだけを先に撤去でき、事故(剥がす時に塗料が飛び散るなど)を防げます。
滲ませないコツ
養生のゴールは塗料がつかないことだけではありません。
剥がした後に、カミソリで切ったような鋭利な直線が出ていることこそが、デザイナーが求める美しい仕上がりです。
そのために必要なテクニックを共有します。
- 指の腹で圧着する
テープを貼った後、必ず指の腹やヘラを使って、キワの部分をギュッと押し付けてください。
壁紙の凹凸にテープを食い込ませるイメージです。
このひと手間がないと、デコボコの隙間から塗料が侵入し、ラインがガタガタになります。 - 剥がすタイミングは半乾き
初心者がやりがちな最大のミスが、完全に乾いてからテープを剥がすことです。
塗料が固まってから剥がすと、テープと一緒にせっかく塗った塗膜までバリバリと剥がれてしまいます。
塗料が手につかない程度に乾いた半乾きの状態で、ゆっくりと剥がすのが鉄則です。 - 角度をつけて剥がす
テープを剥がす時は、塗った面に対して45度〜鋭角に引っ張りながら剥がします。
直角に引っ張ると、塗膜を持っていかれるリスクが高まります。
養生とは、未来の自分への配慮である
塗装作業において、養生は最も時間がかかり、地味で退屈な工程かもしれません。
しかし、塗り終わった後にテープを剥がし、そこに現れるあまりにも美しい直線を見た瞬間、その苦労はすべて報われます。
何より、床に一滴のペンキも落ちていない状態なら、後片付けはテープを丸めて捨てるだけで終わります。
完璧な養生こそが、最高傑作への最短ルートなのです。